イタリアチーム
 小さな港が見える公園でテリーは、のんびりとした午後を過ごしていた。
 心地よい気候に恵まれ、リゾートを兼ねてのイタリア旅行は彼自身のアイデアにもかかわらず、「スバラシイ!」と思うのだった。
 しかし、それは長くは続かなかった。テリーの元に届けられた一通の招待状が原因だった。
「キング・オブ・ファイターズ、か。」
 多少、食傷気味である。しかし、主催者「R」とは一体、誰なのだ?
「『R』か…。ギースやクラウザーではないようだが…。う〜ん、誰だろう。R…R…あっ『リュウハク・トウドウ』!って誰だっけ?」
 温暖な気候にテリーの思考回路は少し働きが悪くなったのだろうか?
「おーい!テリー、随分と探したぞ!」
 相変わらず威勢のいいジョー・ヒガシがやって来た。後ろにはアンディもいる。
「ああ、どうしたんだ、二人とも。よくこんな所までやってきたな。」
 突然の来訪者に少々戸惑い気味のテリーをよそに、ジョーは話を続けた。
「どうしたんだ?じゃねぇだろ!これよ!これ!」
 そう言って、ジョーは封筒をピラピラと振った。
「出るんだろ?な、な!今回は三人一組だってよ、なんだかおもしろそうだよな!」
 確かに、このシステムはおもしろそうだ、とテリーも思った。
「兄さん、この『R』って一体…。」
 アンディが不安そうにたずねた。そう、その問題もあるのだ。
「とにかくよー、つべこべ言わずに、出てみようぜ!なっ、二人とも!」
 ジョーの勢いに乗せられて、二人はまた、新たなる「キング・オブ・ファイターズ」への出場を決めた。

中国チーム
 人里離れた山の奧に老師の庵である「鎮元大仙」は存在した。そしてここにも「R」からの招待状は届けられた。
「ふぅむ。きんぐ・おぶ・ふぁいたーず、とな…」
 庵の主である鎮元斎は深いため息をついた。この招待状には、なにかしら嫌な「気」を老師は感じていた。

「ハッ、ハッ!エイ!タァッ!」
 小鳥のさえずりのような掛け声が遠くで聞こえている。そして、それに呼応するかの様に少年の気合に満ちた掛け声も聞こえる。
「ヤッ!テヤッ!ウリャッ!!どや!まだまだ行くでぇ!」
 少女の名は麻宮アテナ。少年の名は椎拳崇。二人は老師の下で修行を受けているサイキックソルジャーである。
 二人とも、修行の甲斐あってか随分とそれぞれの拳法の腕をあげていた。

「この大会で、二人の修行の成果を確かめて見るのもいいかのう…」
 そう言うと、老師は稽古中の二人を呼び寄せた。
「二人とも、よく聞くんじゃ、わしの手元にある格闘大会の招待状が届いた。そこで、ええ機会じゃから、二人の修行の成果を確かめようと思ってのう、どうじゃ?」
「おお。そらええわ!大賛成や!アテナ、よ〜う見ときや!オレのカッコエエ姿みしたるからな!ホレなおすで!ホンマ」
「もう、ケンスウったら、お師匠さんは私たちの修行の成果を試すためだっていってるのに…」
 アテナは少し困ったように言った。

日本チーム
「テヤァッ!」
 と、叫んだかと思うと大門五郎の体は宙に浮き、どんっ!と大きな音を立てて落ちた。
「ぐぅぅぅぅぅ…」
 彼の負け、である。全日本異種格闘技戦準決勝に勝利した少年はわずかに呼吸を整えた。見た目は華奢なその少年──草薙京の格闘スタイルは、彼の一族に伝わる《炎を操る武術》であり、神話にあるスサノオノミコトを守護した《草薙の剣》とは、実は《草薙の拳》であると言われるほどの古い歴史を持っていた。京は、その草薙一族の直系の血筋にあたる。そして大門五郎は、今の準決勝で京の持つ技の奥深さを思い知らされた。
「残念だったな。元・金メダリストさん」
 大門がその声に振り向くと、そこには見事に金髪を逆立てた青年がいた。京より一足先に決勝戦出場を決めた二階堂紅丸である。見た目も派手で、かなり目立つ男である。
「あんな小僧に負けるなんて、お笑いだな。元・金メダリストの名が台無しだ」
「…おぬし、中途半端な志では勝てぬぞ…」
「なんだと?このオレ様が優勝して、日本中の人気者になるって決まってるんだよ!」
「心してかかるのだな…」
 さすがに大きなことを言っただけに、京と紅丸の闘いは勝負の決着が見えなかった。京がある程度の間合いを保つ反面、紅丸は逆である。まさに一進一退の攻防戦であった。
「くそっ!なんて奴だ。ヘヤァッ!!」
 紅丸は一気にカタをつけるべく、間合いを詰めようと大きく跳んだ。そこに、
「ほぉうりゃあ!」
 今まで、ある程度の距離を保ち続けていた京が超必殺技裏百八式・大蛇薙を放った。
「何っ?ウワアァァァ!!」
 紅丸が京の放った炎に包まれて闘いは終わった。京は大きく息を整えながら、こう言った。
「へへ…燃えたろ…」
 この大会で互いの強さを認め合った彼らは、その1年後『キング・オブ・ファイターズ』の招待状を受け取るのであった。

アメリカチーム
「なあ、一緒にやってみねぇか、ラッキー・グローバー」
「なんなんだよ、あらたまって気持ち悪ィぞ」
 古くからの友人であるヘビィ・D!の部屋を訪問したラッキーは、普段ではあり得ないヘビィ・D!のしおらしい表情に一瞬、自分の目を疑った。
「キング・オブ・ファイターズ?なんだ、それ?」
 しげしげと招待状を見つめてラッキーは訊ねた。
「俺もなんで招待されたのかは、わからねぇ。だが、俺の力を評価してくれてるってことは間違いねぇだろ」
 そう言ったヘビィ・D!を見てラッキーは、はっとした。
 過去に試合相手を死亡させ、それ以来、対戦相手を得られずにやり場のない怒りとボクシングに対する絶望感にさいなまれていた彼にとって、この大会の招待状は何よりも喜ばしいプレゼントであるに違いなかった。そう思うと、まるで自分のことであるかのように、嬉しい、と思った。
 また、ラッキーにとっても全米空手選手権のタイトル保持者である自分の実力が、世界の中で、どれほど通用するものなのか興味はあった。
 そう思うと、無性にこの大会に参加したくなった。が、一つ問題があることに気が付いた。そして、素直にヘビィ・D!に訊いてみた。
「なぁ、あと1人はどうするんだ?」
 そう、この大会は3人一組のエントリーが条件であった。
「ああ、ちょっと心当たりがあってな…」
 愛猫プーとじゃれあいながら、彼はそう言って、テレビのブラウン管を指した。
「おい、マジかよ…」
 ブラウン管の向こうには、今シーズンのMVPに輝いたブライアン・バトラーの、これまた輝くような笑顔があった。

韓国チーム
「おとうさん、みてよ!すごいよ!」
 幼い息子たちが、顔を紅潮させてキムを呼んだ。
「どうしたんだい?ドン、ジェイ。おおっ!」
 そこには刑務所の防犯カメラに写ったチャン・コーハンの姿があった。画像はひどく悪いが、刑務所の壁をことごとく破壊してゆくその姿は、さながら化け物のようであり、テレビを通してではあるが、その脅威は深く伝わってくる。
「なぜ、彼はこれだけの力を持っておりながら、正義のために使わないんだ。よし、私が彼を目覚めさせてやる!」
 ニュースは、この脱獄犯が未だに捕まっていないことを告げた。こうしては居られない。早速キムはチャンの居所をつきとめるべく街へ出た。
 すっかり夜も更けて、街は静寂に包まれているかの様であった、…が突然
「フヒョヒョヒョヒョヒョヒョ〜!!」
 と奇妙な叫び声が聞こえたかと思うと、鋭い刃物のようなきらめきが夜の街を彩った。
 その攻撃を間一髪でかわした、と思う間もなく次の攻撃が来る。右から来たかと思えば、上から飛んで来る。かなりすばしっこい奴だ。いくら防御していてもキリがない。
「飛燕斬!」
 キムはほんの一瞬のスキをついて、この夜の来訪者に一撃をくれてやった。
「ウヒョー!まいったでやんすよ!」
 そこには、顔面蒼白でオドオドしている小男のチョイ・ボンゲがいた。今の襲撃から、彼もまた驚くべき攻撃力を持ちながらも、その使い道を誤っているとキムは思った。
「よし、あなたも私が教育しましょう。世の中にはまだまだ悪がいるものだな!」
 そう言ったキムの手には『キング・オブ・ファイターズ』の招待状が握られていた。

ブラジルチーム
「R」からの招待状を手に取り、ハイデルンは自室の窓の外を眺めた。鬱蒼と茂るジャングルは相変わらずだが、今の彼にとっては、さほど気にならないようである。
「今回、君に依頼したいのは『キング・オブ・ファイターズ』という格闘大会の裏に潜む組織の壊滅だ。招待状も手に入れてある。やってくれるかね?」
『やってくれるかね?』とたずねながらも、国際警察の幹部の口調は、やや強引であった。
「その招待状を見せて頂けますか。」
 ハイデルンは静かに言った。
 封筒を開け、招待状に目を通した。そして、ハイデルンは、ほんの一瞬だが冷静さを失った。招待者は「R」と名乗っていた。
「R…。ルガール…。」
 短くつぶやいて、ハイデルンは8年前の悪夢を思い起こした。
 それは、まさに悪夢と呼ぶにふさわしい出来事であった。自分の部下たちが、断末魔の悲鳴をあげ、次々と倒れていったのだ。しかもそれは、たった一人の男、いや『鬼神』によって行われたといっても過言ではなかった。また、その時ハイデルンの愛する妻と娘も…。
「もう、8年になるのか…。」
 その悪夢は、妻と娘に対する深い愛情と、右目の眼帯を見る度にハイデルンに付きまとっていた。そして今、こうして再び対峙する時が来たのだ…。
「遅くなって申し訳ございません。」
 二人の屈強な男がハイデルンの部屋に現れた。ラルフとクラークであった。
「いや、構わん。今日二人に来てもらったのは…。」
 ラルフとクラークに特殊任務の命が下された。

イギリスチーム
「だめったら、だめだ!絶対にだめだ!オレは絶対に許さないぞ!」
 烈火の如く反対する兄・リョウの言葉を思い出すと、ユリは頬をふくらませた。
「なによ、お兄ちゃんったら、あんなに怒ることないのにさ。おまけに父さんと、ロバートさんとチームを組んじゃうんてズルイ!」
 怒りが収まらないままではあるが、ユリはふと、冷静になった。
「どうしよう…。3人一組なんて…。そうだ!」

「も〜ぅ!アンディったらヒドイ!」
 せっかく3人で出場しようと思ってたのに…。
 舞は途方に暮れてつぶやいた。アンディは早々とテリー、ジョーとチームを組んでおり、ほかの知り合いは皆、行方不明。
「一体、どうすればいいのよぉ…」
 がっくりと肩を落としている舞の目の前に、同い年くらいの女の子が立っていた。
「不知火…舞さん、ですよね?」
 その声の主の少女は、いつものような快活なイメージとは違う、初対面のせいか少しあらたまった口調をしたユリ・サカザキであった。
「はい。そうですが…何かご用?」
 それに応えて
「実は…その…」
「なんだぁ!あなたもだったの!」
「そうなの!ひどいでしょ〜!!」
 初めて会った数分後に、2人はすっかり打ち解けていた。
「でも、あたしたち2人のほかに誰か心当たりがあるの?」
 舞が訊いた。
「ええ、イギリスにね」
「ええっ!!イギリス〜!?」
 このやりとりの後、美しき女性格闘家チームが結成されたのは、そう遅くはなかった。

 ※イギリス?って事はリリィかなぁ?キングはフランス人だしなぁ。えぇと、これには訳がありまして…本来はキング、ベア、ビリーというチームでしてビリーの出身地であるイギリスで出場だったわけです。けど、ベアは諸事情で外され…ユリに差し替えられ…結局女性格闘家チームと化しビリーも消えてイギリスだけがその名残として残ったわけです。

メキシコチーム
「しかし、なんでメキシコやねん…」
 ロバートがつぶやいた。
「ん?何か言ったか、ロバート?」
 極限流空手道場メキシコ支部を設立しメキシコにいる弟子を指導するかたわら、リョウとロバートの修行を行っていたタクマは、ロバートのつぶやきを聞き逃さなかった。
「い〜えっ、何でもあらへん!」
 うろたえるロバートのもとへ憮然とした表情のリョウがやって来た。その表情を見逃さなかったロバートは、その場の雰囲気を変えようと、リョウに話しかけた。
「どないしたんや?リョウ。そんな顔しとったら男前が台無しやで」
「どうしたもこうしたもねぇよ!ユリのやつが…」
「なんや?ユリちゃんが、なんやて?」
「ユリのやつが、今度のキング・オブ・ファイターズに出ようって言ったんだ!」
「なんやて?そらあかん。そんな危ないことさしたらあかんで!リョウ」 「その招待状なら、ここにもあるぞ。ほら、3通ある。ちょうどいい、メキシコでの修行の成果を試すいい機会だ。3人一組とあるから、私たちで出場しようではないか!」
「ああ、それがいい!な、ロバート!」
 リョウは『自分たちでさっさとチームを組んでユリを出場させない作戦』にでたらしい。
「せやなぁ、ユリちゃんがおれへんのは残念やけど、しゃあないなあ」
「よし、極限流空手チームの恐ろしさを見せてやる!」
 サカザキ親子の恐ろしいまでの気迫がロバートを圧倒した。

ルガール
 今大会の主催者であり、武器・麻薬密売など、裏世界のブラック・マーケットを支配する総元締め。彼の一番の楽しみは、自分と闘って敗れた格闘家たちを銅像にしてコレクションすることであった。今回の「キング・オブ・ファイターズ」を開催した目的は、その優勝者を自らの手で倒し、新たなる銅像コレクションとすることにある。
 ふだんは上着のまま闘うが、本気になると上着を脱ぎ捨てる。このときのルガールは「鬼神」と呼ばれるほどの無敵の強さを誇るのだ。
 なお、彼には弟がいるのだが、志の相違により、現在は対立している。

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